カフェや駅、ホテルの無料Wi-Fiを使うとき、「この通信は覗かれていないか」と不安になる人は少なくありません。そこで名前が挙がるのがVPNです。ただしVPNは万能ではなく、守れる範囲と守れない範囲がはっきり分かれています。
この記事では、総務省の「公衆Wi-Fi利用者向け 簡易マニュアル(令和7年2月版)」とIPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」を手がかりに、VPNでできること・できないこと、必要な人と不要な人の見分け方、無料VPNのリスク、主要サービスの料金比較、選び方、法的な注意点を整理します。結論を先に書くと、情報漏洩対策の土台はセキュリティソフトとパスワード管理で、VPNはその上に足す補助的な対策です。
先に結論:VPNは「通信経路の保護」に特化した道具
- VPNが得意なのは、公衆Wi-Fiなど信頼できない回線の上で、通信を暗号化して運ぶこと
- フィッシング、ウイルス感染、利用中サービス側からの情報漏洩、パスワードの使い回しには効かない
- 「VPNを入れれば匿名になる」「VPNだけで安全になる」ことはない
- ウイルス対策(セキュリティソフト)は、VPNとは別に必要
公衆Wi-Fiで実際に起きうること
総務省の簡易マニュアルでは、公衆Wi-Fiの利用で気をつける点を3つに整理しています。
- 接続するアクセスポイントをよく確認する
- 重要な情報はHTTPS通信しているか確認する
- パソコンの共有設定に注意する
マニュアルには、悪意をもって設置された偽の公衆Wi-Fiに接続し、SNSのIDとパスワードを盗まれる事例が紹介されています。偽のWi-Fiが、いつも使っているSSID(ネットワーク名)と同じ名前で設置されることもあるとされ、不審な点があれば利用を控える判断も必要です。また、HTTPS通信をしていても本物そっくりの偽URLの場合があるため、URL全体を確認するよう注意されています。
同じマニュアルは、ID・パスワードを使い回していると、だまし取られたときに被害が拡大することにも触れています。この点はVPNでは防げません。なお、このマニュアルはVPNに言及していません。VPNは、上の3点を実行したうえで足す選択肢と考えるのが現実的です。
VPNで守れるもの/守れないもの
VPNで守れるもの
- 通信経路の暗号化:端末からVPNサーバーまでの通信が暗号化され、同じWi-Fiにつないだ第三者が通信内容を読み取りにくくなる
- 公衆Wi-Fiでの盗聴リスクの低減:暗号化されていないWi-Fiや、暗号化キーが公開されているWi-Fiでの盗み見のリスクを下げる
- IPアドレスの秘匿:接続先のサイトに見えるIPアドレスが、自分の回線のものからVPNサーバーのものに変わる
VPNでは守れないもの
- フィッシング:偽サイトにIDやパスワードを自分で入力してしまえば、通信が暗号化されていても盗まれる。IPAの10大脅威2026でも、個人向け脅威に「フィッシングによる個人情報等の詐取」が挙がっている
- マルウェア感染:不正アプリや添付ファイルを開いてしまえば、VPNの有無に関係なく端末内の情報が抜かれる
- サービス側からの漏洩:利用しているネットサービスが攻撃され、登録した個人情報が流出するケース。IPAの個人向け脅威にも「インターネット上のサービスからの個人情報の窃取」がある。VPNでは防げない
- パスワードの使い回しによる不正ログイン:流出したパスワードを別サービスで試される被害は、通信経路とは無関係
HTTPSが普及した今、VPNの価値はどこにあるか
現在の主要なWebサイトの多くはHTTPSで通信します。HTTPSの通信は、Wi-Fiの途中で覗かれても内容は暗号化されています。そのため「VPNがないと公衆Wi-Fiで全部筒抜け」というのは言い過ぎです。
一方で、HTTPSが守るのは「ブラウザとサイトの間」で、VPNが守るのは「端末からVPNサーバーまでの全通信」です。HTTPS対応でないアプリやサイト、偽Wi-Fiで通信を横取りされる場面では、VPNが追加の防御になります。ただし、フィッシングサイトや偽のログイン画面に自分で入力したIDやパスワードは守れません。VPNは、HTTPSで足りない部分を少し補う道具と考えてください。
VPNが役立つ人/優先度が低い人
| 判断軸 | 役立つ人 | 優先度が低い人 |
|---|---|---|
| Wi-Fiの使い方 | カフェ・空港・ホテルの公衆Wi-Fiで仕事や買い物をする | 自宅回線とスマホの回線(モバイル通信)が中心 |
| 扱う情報 | 業務データや顧客情報をノートPCで扱う | 公衆Wi-Fiでは動画視聴やニュース閲覧のみ |
| 他の対策 | セキュリティソフトと多要素認証を入れ済み | セキュリティソフトも二要素認証もまだ(先にこちら) |
| 出張・海外 | 出張や旅行が多く、回線の安全性が分からない場所を使う | 外出先でほとんどネットを使わない |
外出先でスマホのテザリングや自分のモバイル回線を使うなら、公衆Wi-FiのためだけにVPNを契約する必然性は下がります。VPNを検討する前に、OSの更新、セキュリティソフト、パスワードの使い回しをやめることを優先してください。
無料VPNのリスク
無料のVPNアプリは数多くありますが、運営側には通信を中継するサーバー費用がかかります。その費用をどこで賄っているのかは、利用前に確認すべき点です。一般論として、無料VPNでは次のようなリスクが指摘されます。
- ログの取得・保管:接続先や接続時刻などの記録が残るサービスがある
- 広告の表示や外部への提供:広告収入や利用データの活用で運営費を賄うサービスがある。プライバシーポリシーでデータの扱いを確認する
- 通信速度や接続の制限:有料プランへの誘導のため、容量や速度に上限がある
- 運営者が分かりにくい:運営会社や所在国、問い合わせ先が不明確なものがある
無料VPNを使うなら、運営会社の所在、プライバシーポリシー(ログの扱い)、アプリの権限要求を確認してください。「VPNを使っている=安全」ではなく、「VPNの運営者を信頼できるか」が問われます。VPNは通信の中継先を自分から運営者に切り替える仕組みなので、運営者が信頼できなければ、公衆Wi-Fiよりかえって危険になる場合もあります。
主要VPNサービスの比較表
各社の公式サイトで確認できた情報をまとめました。割引後の価格は期間限定のキャンペーン表示で、契約期間とセットで見る必要があります。総額は、月額換算 × 契約月数で再計算しています。
| 項目 | ExpressVPN(ベーシック) | Surfshark(Starter) | MillenVPN(2年プラン) |
|---|---|---|---|
| 月額換算(割引後・税の扱いは各社で異なる) | 480円 | 約298円 | 360円(税込396円) |
| 契約期間 | 2年+4か月(計28か月) | 24か月+3か月(計27か月) | 2年 |
| 初回期間の総額(税の扱いは各社で異なる) | 13,440円(480円×28か月) | 8,046円(298円×27か月) | 9,504円(税込396円×24か月で試算) |
| 更新後の料金 | 年額14,999円で自動更新 | 公式ページに金額の記載なし(申込画面・規約で確認) | 月額950円+税で自動更新 |
| 同時接続台数 | 10台 | 無制限(無料トライアル中は3台) | 無制限(公正利用ポリシーあり) |
| 返金保証 | 30日間(新規ユーザー対象) | 30日間 | 30日間(サブスクプラン) |
| 運営国 | 英領ヴァージン諸島(公式説明) | オランダ | 運営会社はAzpocket, Inc(国は公式ページに明記なし) |
| 第三者監査(対象は各社で異なる) | ノーログ監査あり(公式の監査一覧では、KPMGが2022年9月にノーログポリシーを監査。KPMGの2023年12月・2025年6月はプライバシー関連、PwCの2019年6月はプライバシーポリシー遵守とTrustedServerの監査)。Cure53はアプリ等のセキュリティ監査で、ノーログ監査ではない | ノーログ監査あり(公式がDeloitteの保証報告書を2023年・2025年に受けたと説明) | 公式ページに第三者監査の記載なし |
※2026年11月時点。料金・条件は変更されることがあります。税の扱いは各社で異なり、ExpressVPNは消費税がチェックアウト時に加算される旨、Surfsharkは通貨・VAT・クーポンで変動する旨の注記があります。MillenVPNの税込表示は公式ページの記載です。申込前に必ず公式サイトで最新の条件を確認してください。
※NordVPNも主要サービスですが、2026年11月5日時点で公式の料金ページを確認できなかったため、この表には載せていません。
※ノーログ監査の記述は各社の公式説明です。監査報告書の全文は、一般公開されていないものもあります。
※比較表の各社はサービスの性格が違います。料金だけで決めず、次の「選び方」で自分の使い方に合うか確認してください。
VPNの選び方:契約前に見る6点
- ノーログ方針と第三者監査:「ログを保存しない」は自己申告です。独立した監査機関による確認があるか、運営会社と所在国が明記されているかを見る
- 同時接続台数:スマホ・PC・タブレットなど、自分の端末数に足りるか。台数無制限でも公正利用ポリシーがある場合がある
- 通信速度:速度は回線や時間帯、接続先サーバーで変わる環境差が大きい項目です。体験談の数値を鵜呑みにせず、返金保証の期間内に自分の環境で試す
- 日本語サポート:トラブル時に日本語で問い合わせできるか。公式サイトで言語と連絡手段(チャット・メール)を確認する
- 解約・返金の条件:返金保証が新規ユーザーのみか、申請方法、対象期間を確認する
- 自動更新:長期プランは初回だけ安く、更新時に料金が上がる場合があります。更新後の価格と、自動更新の停止方法を必ず確認する
たとえば本記事の比較表では、ExpressVPNは初回13,440円でも更新後は年額14,999円、MillenVPNは更新後に月額950円+税と、初回と更新後で料金が大きく変わります。長く使うなら、更新後の料金で比べてください。
法的な注意:合法でも守るべきルールがある
日本国内でVPNを使うこと自体は違法ではありません。企業のテレワークでもVPNは広く使われています。ただし、次の点には注意が必要です。
- 利用規約:動画配信サービスなどは、地域制限を回避するためのVPN利用を規約で制限していることがあります。規約に違反すると、アカウント停止などの措置を受ける可能性があります
- 地域制限の回避は勧められません:本記事は、視聴制限を回避する目的でのVPN利用をおすすめしません
- 違法行為の免罪にはならない:VPNを使っても、違法なダウンロードや不正アクセスが許されるわけではありません
海外から日本のサービスを使う場合も、国や地域によってVPN自体を規制している場合があります。渡航先のルールは事前に確認してください。
セキュリティソフトとVPNの関係
市販のセキュリティソフトの中には、VPN機能が同梱されているものがあります。すでにセキュリティソフトを契約している場合は、VPN機能が付いていないか、プランの内容を先に確認すると無駄な契約を避けられます。ただし、同梱のVPNは通信量や接続先に制限があるなど、専業サービスと条件が異なることがあります。セキュリティソフト自体の選び方は、PCのセキュリティソフトは必要かと主要製品の比較で解説しています。
VPNで守れるのは通信経路だけです。端末の乗っ取りや機器の脆弱性は別問題で、たとえばネットワークカメラの乗っ取り対策は、VPNでは防げません。具体的な対策は防犯カメラのハッキング対策と選び方で解説しています。
VPN公式サイト
比較表に載せたサービスの公式サイトです。料金や条件は申込前にあらためて確認してください。
まとめ:VPNは「足す対策」。土台を先に固める
- フィッシング、不正ログイン、サービス側からの流出など、VPNでは防げない情報漏洩の経路がある
- VPNの役割は、公衆Wi-Fiなどでの通信経路の暗号化とIPアドレスの秘匿。匿名になるわけでも、それだけで安全になるわけでもない
- 先にやること:OSとアプリの更新、セキュリティソフト、パスワードの使い回しをやめる、二要素認証
- 公衆Wi-Fiを頻繁に使う人は、監査・運営国・更新後の料金・返金条件を見て有料VPNを選ぶ
- 無料VPNは、運営者とログの扱いが分からないまま使わない
※各社の料金・条件は2026年11月時点の公式サイトの表示にもとづきます。最新情報は必ず公式サイトでご確認ください。




